脳ざらし紀行


2003-12-01

_ 東京ゴッドファーザーズ

「東京ゴッドファーザーズ」はすでに公開されているようだ。ネットであまり話題になっていないので知らなかった。見に行こう。

_ [国際] Low-Yield Nukes

MSN Slateの記事。アメリカ議会が低威力核兵器の研究開発のための2004年度の予算を承認。

「低威力核兵器」は核兵器だろうか。通常兵器だろうか。通常兵器だから俺達は「低威力核兵器」を使ってもいいけど、お前らが持っているのは「核兵器」だから使ってはダメ、という言い訳は通用するだろうか。抑止力としては機能しないだろう(何せ「低威力」だから)「低威力核兵器」を一体何のために研究開発するのだろう?

テロに対する抑止力?本当に使うつもり?

Bush plans new nuclear weapons(The Observer)

_ [国際][経済] France and Germany break the rules

Marginal Revolutionの記事。フランスとドイツがEU加盟に必要な財政赤字をGDPの3%以下に抑えるという義務を放棄すると宣言してそれをEUに認めさせた。

EU to Let 2 Nations Run Up Euro Deficit(AP)

Budget clash hits talks on EU constitution(Guardian)

Politics Rescue Euro From Stability Agreement(NYTimes)


2003-12-02

_ [ネット] RESTful Error Handling

O'Reilly Developer Weblogsの記事。HTTP Status CodeはHTTPに関連するエラーにだけ使え。それ以外のエラーには使うな。Webサービスのエラーには人間にも機械にも可読なXMLメッセージを返せ。とのこと。

_ [国際] Imad Khadduri - Iraq's nuclear mirage

Baghdad Burningより。

イラクで核開発に係わってきた科学者が出版した本のサイト。いくつかの記事が読める。

関連する記事。Iraq Scientists: Lied About Nuke Weapons(AP)。

_ [経済][後で] Road Pricing

Marginal Revolutionの記事。ロードプライシングに関するまとまったレポートを紹介している。後で読む。

_ [ネット] リンクと信用

経済板いちごびびえすより。

06: 名無しさんの冒険  2003/11/30(Sun) 09:39

リンクサイトは流通機構における卸売りと似た効果があるな

07: すりらんか  2003/11/30(Sun) 09:51

情報卸売業=リンクサイトってわけですね(w

12: 名無しさんの冒険  2003/11/30(Sun) 23:59

>>06

お、するどいご意見。一時期、卸無用論とか流通の簡素化が喧伝されたが、卸が持つ機能「情報集約」と「信用供与」とかを考えると、卸はすっげぇ重要と痛感するワナ。

_ [映画][アニメ] 東京ゴッドファーザーズ

見てきました。素晴らしいの一言です。

赤ちゃんの声は大谷育江さんだと思っていたらこおろぎさとみさんでした。まだまだ修行が足りません。ハナちゃんではなくひまわりだったか。


2003-12-03

_ [経済] The Roaring Nineties: A New History of the World’s Most Prosperous Decade

スティグリッツの2003/11/05の講演記録。お題は当然、最近出版した「人間が幸福になる経済とは何か」関連。

_ [国際]

俗に言う「イスラム原理主義」は正しくは「イスラーム主義」と言うべきだということは、どこかで聞いたことがあった。だけど、どうもしっくりくる説明を見つけることができないでいた。Wikipediaの以下の説明は分かりやすい。

本来Fundamentalism(原理主義)はキリスト教のプロテスタントの中で聖書の無謬と千年王国の到来を固く信じる派(キリスト教原理主義)を指す語であって「根本主義」と呼ばれることも多いもので、イスラム教においてこれと平行関係にあるメシア(マフディ)信仰とはまったく別の潮流であるイスラム主義とは性質が異なる。

ja.Wikipedia:イスラム原理主義

中東、およびイスラーム関連の本を読んでいると、関係が錯綜してわけが分からなくなってくるので、ちょきにメモを取ることにした。ムスリム同胞団、ジハード団、イスラーム集団などの資料へのリンクをに作成。

結局「イスラーム主義」って何やねん、と思った人は飯塚正人助教授(イスラーム学、中東地域研究)の「イスラム「原理主義」ISLAMIC“FUNDAMENTALISM”」を参照。

_ 同胞と同朋

どうほう ―はう 0 【同胞】

(1)祖国を同じくする者同士。同じ国民。同じ民族。

(2)同じ母から生まれた兄弟姉妹。はらから。

大辞林 同胞

どうぼう 0 【同▼朋】

(1)友達。友人。朋友。同袍(どうほう)。

(2)「同朋衆」に同じ。

大辞林 同朋

だから、「ムスリム同朋団」ではなく「ムスリム同胞団」が正しい。


2003-12-04

_ [ネット]

書き手がリンクされることを想定していないページにリンクすることに関する議論。

_ [国内] 武富士の記者会見場

興味深い。

<付記>兜クラブでの会見

 武富士がトンデモ会社であることについてはもはや争いがないがトンデモはトンデモなりにいろいろ知恵を絞っている。

 その一つが会見場の設定。

 外野の筆者がこんなことを言うと反発を受けるだろうが、正直言って、一部を除いておおよその質問内容は緩かった。

 なぜかと言えば、経済記者は一連の武富士事件(特に盗聴事件)を詳しくフォローしているわけではないからである。これがもしたとえば、武富士本社や司法記者クラブで、事件のディテールに通じた警視庁担当記者をメインに会見を開いていれば、2時間は吊し上げられていただろう。

 武富士はそういう仕組みを分かった上で、兜クラブを選定しているのである。

ESPIO!

新聞社内にも縄張りがあるという話。司法記者は経済記者の縄張りを侵さない。その逆もまた然り。

_ [本] イスラーム世界がよくわかるQ&A100

本の画像日本のイスラーム研究者たちがあつまって書いた本。イスラームのことが良く分かる。

いくつかの新しい視点が得られた。

イスラームは聖俗の「聖」だけにとどまる「宗教」ではありません。我々は精神的なものと世俗的なものを分け、「宗教」は前者にのみかかわると考えますが、イスラームはこの宗教観にそぐわないのです。

イスラーム世界がよくわかるQ&A100 P12(堀井聡江担当)

イスラームはタウヒード(神の唯一性の信仰)を重要命題としていますが、イスラームの歴史は、神の命令を厳密にふみ行おうとして妥協しない者たちと、さまざまな状況に柔軟に対応して自分たちになじみやすい形の実践を選びとろうとする草の根の信仰者たちとの、二つの極の間の運動として理解する必要があるようです。

(中略)

イスラーム教徒の子に生まれ素朴に家族の慣習や倫理・思考基準をイスラームと思い信じる人々(おそらく多数)と、環境の変化・文化摩擦を経験し新たにあるべきイスラームへの覚醒を求める人々との間の亀裂は、イスラーム復興運動の今後に微妙な影を投げかけるでしょう。

イスラーム世界がよくわかるQ&A100 P15(山岸智子担当)

_ [本] イスラーム諸国の現代史

本屋に行ってイスラーム諸国の現代史に関する本を探してみたけど、ほとんどなくて、そんなもんかと諦めていたけど、ネットで探してみたら結構あった。絶版しているものが多いけど。

例えば、

加賀谷寛著「イラン現代史」(絶版)。イラン革命の少し前までを扱っているらしい。他には宮田律著「イランの歴史」、桜井啓子著「現代イラン」。

イラクの現代史は酒井啓子氏の著作が色々出版されている。

小山茂樹著「シリアとレバノン」(絶版)。

エジプトの現代史に関する日本語で書かれた本はマジで無いかもしれない。

岡倉徹志著「サウジアラビア現代史」。

パレスチナ、トルコ、クルジスタン、アフガニスタン、インドネシア、マレーシアなどは探せばたくさんあるだろう。インドもたくさんあるみたい。パキスタンの現代史に関する本はざっと検索してみたけどなさそう。

アフリカ諸国に関しては小田哲郎他「アフリカ現代史全5巻」という最終兵器が存在する。

アンタイオス歴史図書読書一覧が非常に参考になった。

中東・イスラーム関係文献一覧というものもある。


2003-12-05

_ [おもしろ] 31人の声優

「ネギま!」のキャスト。30分くらい笑える。グエンディーナ・ニュースより。

_ [本] イスラーム文化 ―その根柢にあるもの―

井筒俊彦著「イスラーム文化」、読書中。著者の講演をまとめたものなので非常にわかり易いし、読みやすい。生まれて初めて岩波文庫などというものを買って読んだ気がする。


2003-12-06

_ [映画] ファインディング・ニモ

映画「ファインディング・ニモ」を見てきた。映画の質自体は高いことは高いけど、ピクサーの映画としては期待外れだった。

グラフィックスは凄くきれいなんだけど、結果的には魚が泳いでいるだけということになってしまっている。高度なCG技術を駆使して得られた結果が、「生きもの地球紀行」で良く見るような、何の変哲もない海中の景色になってしまっていたのが残念。

脚本も練り込みが足りない。

グラフィックスにしろ脚本にしろ、やっぱり魚が主人公という元々の設定に無理があったような気がする。

次回作は長編ではピクサー初、人間を主人公にした作品のようだ。ピクサーの新たなる挑戦。ファイナルファンタジー・ザ・ムービーみたいにリアル路線ではなく、キャラクターデザインはデフォルメされていたけど。則巻博士のようにときどきリアルキャラになるという演出はありだと思う。やってくれませんかね。


2003-12-07

_ [本] 食肉の帝王

本の画像溝口敦著「食肉の帝王」、読了。食肉業界大手ハンナングループを築き上げた浅田満氏に関するノンフィクション。同和利権を利用してのし上がっていく様や、政界、暴力団、芸能界、そしてスポーツ界とのつながりを描いている。講談社ノンフィクション賞授賞。

感想。僕が期待していたものではなかった。そもそも内容が薄い。文字数が少ない。堀下げが浅い。同和利権に関してもさらっと触れるだけだ。

魚住昭著「渡辺恒雄 メディアと権力」のような読みものとしての面白さもなかった。

本書で触れられている個別の件に関しては、限りなく黒に近い灰色は、黒ではなくて白だと言うほかない。

_ [本] ウェブユーザビリティの法則

本の画像スティーン・クルーグ著「ウェブユーザビリティの法則」、読了。とても参考になる。商業サイトをデザインすることなんてないだろけど、それでも本書から学ぶべき点は多い。

たださんも書いているとおり、本自体のユーザビリティも高い。

ただし、原書ではタイトルは「Don't Make Me Think!」なのに、邦訳では「ウェブユーザビリティの法則」と全く平凡な類書と区別のつかないタイトルになっている。本屋で探すのに苦労した。本屋の棚に並んだときのユーザビリティが低いのが本書の唯一の欠点。


2003-12-13

_ のぞみだけに「のぞみ」薄、駄洒落見出しリンク集

hayashidaさん作。確かにちょっと引っ掛かってはいた。

_ ナムコポーロ

世界中の写真が集まるサイト。なぜかナムコ。

_ 古地図リンク集

★ ★ ★より。

地図・写真ネタはおもしろそうなのでリンク集をつくってみよう。

■追記。良く見たら既に同じサイトに地図のリンク集があった。日本地図、世界地図、航空・衛星写真その他諸々。


2003-12-14

_ [本] サウジアラビア現代史

本の画像岡倉徹志著「サウジアラビア現代史」、読了。

サウジアラビアの現代史がコンパクトにまとまっている。題名のとおり。読んでおもしろいかというと、そうでもない。ざっと概観するには便利。

「サウジアラビア」は「アル・サウード家のアラビア」という意味。文字どおり「サウジアラビア」がサウード家の所有物であることを表している。

『1998年の国家収入約313億ドルのうち、王族給与が100億ドルから150億ドル、国防費に100億ドル』(P237)という予算配分にもそれがあらわれている。

_ [本] CIAは何をしていた?

本の画像ロバート・ベア著「CIAは何をしていた?」を読了。中東や中央アジアでCIAの諜報員を勤めた著者による活動記録。および、事なかれ主義に陥っていくCIAに対する批判。活動記録の方が本書の大半を占める。ジョージ・クルーニー主演で映画化予定。

めちゃくちゃおもしろい。細部にわたる描写とテンポの良い構成、飽きさせない展開は読みものとして無類の出来である。

著者が批判するCIAの事なかれ主義の原因は政治的な意志の不在であるように僕には思えた。CIAも政治の指示のもとに行動する官僚組織である以上、ホワイトハウスが諜報活動に興味がなければ、官僚組織の常として事なかれ主義に傾いてしまうだろう。

_ [国際] Saddam Hussein arrested in Iraq

BBCの記事。さて、どうなる。

_ 品切れの中央アジア

現代中央アジアに関する本をと思って探してみたら、アハメド・ラシッド著「よみがえるシルクロード国家」というのがあった。と思ったら品切れ。うーん。1996/09発行なんですけど。もう品切れか。

ちなみにアハメド・ラシッド氏は「タリバン」の著者。話題になった本の著者なんだけど品切れ。古本でも手に入れるのは無理っぽい。

現代中央アジアに関する本は他に無いかな。「ロシア現代史と中央アジア」。7000円は高い。「中央アジア・旧ソ連イスラーム諸国の読み方」。これも品切れ。「中央アジアの行方―米ロ中の綱引き」。これも品切れ。「聖戦」。同じくアハメド・ラシッド氏による著作。

さまよえるロシア」。「中央アジアを知るための60章 エリア・スタディーズ」。「中央アジアと湾岸諸国」。「ラディカル・ヒストリー」。

_ [国際] ロジャー・タムラズ

CIAは何をしていた?」の最後の章第4章に登場するおたずね者のビジネスマン、ロジャー・タムラズ(Roger Tamraz)に関する記事へのリンク。適当に検索して見つけた。カスピ海油田はクリントン政権のときから焦点になっていたのか。


2003-12-16

_ [ネット] Stackless Python

名前がかっこいい。

フカマチカズヤの日記gabriel日記で取り上げていたので、きっと凄いものなんだろう。

魅惑的なPython: Python実装に駆り立てたもの(IBM : developerWorks)。

継続を実装するために、Cのスタックを使わないようにしたという話?

■追記。「スタッドレスタイヤ」とちょっと似ている。

_ [ネット] Mozillaのマニアックな設定

JavaScript編。Mozillaは設定できる項目が膨大なんだけど、設定方法がpref.jsに直書きしかない上に、すべての設定項目があらかじめpref.jsに書かれているわけではないので、何が設定できるかを探すこと自体が大変。

user_pref("network.http.max-persistent-connections-per-proxy", 24);

プロクシサーバへの同時接続数のmaxを24に設定。これで、大量のタブを同時に開いても引っ掛からなくなった。プロクシサーバと言ってもローカルに立ててる privoxyだけど。

_ [国際] ロヤ・ジルガ

アフガニスタンで新しい憲法を制定するために、国民大会議「ロヤ・ジルガ」が開催されている。全国から約500人の議員たちがカブールに集まった。

で、この議員たちはどうやって選ばれたんだろうと思って検索して調べたら以下のようなページがあった。

アフガニスタン情報(2002/5/24)

_ [経済] 会計制度とバブル

スティグリッツ著「人間が幸福になる経済とは何か」を読んでいて、80年代のアメリカでのS&L(貯蓄貸付組合)の破綻、90年代の日本のバブル、そして90年代のアメリカのITバブルはすべて会計制度が原因で余計に悪化したことに気付いた。

どれも会計制度が直接の原因というわけではないけど、会計制度の欠陥が事態をより悪い方向に導いたのは間違いない。

S&L(信用組合みたいなもの)の破綻は以下のようにして起こった。まず金利が自由化されて、S&L同士の間で競争が起こった。景気を引き締めるために金利が引き上げられた。住宅抵当の金利は低いままだったが、預金者へ支払う金利は高騰し、逆ざやとなった。こうして、いくつかのS&Lは当然破綻することになった。少なくともそのはずだった。

しかしレーガン政権は破綻したS&Lを処理することをせず、会計制度を変えて延命する事にした。会計制度を変えても逆ざやであることにはかわりない。そこで各S&Lの経営者たちはリスクは高いがリターンも高い案件に投資して一か八かの賭けに出ることにした。預金者の金でギャンブルをする事にしたのだ。高い金利で預金を集めリスクの高い案件に一か八かの賭けをする。

しかし、預金者の預金は預金保険機構により保護されていた。預金者は自分の預金がギャンブルに使われることを知りつつ高い金利目当てにS&Lに預金した。破綻処理を先延ばしする事により事態は当初よりもよりいっそう深刻なものになっていった。(「人間が幸福になる経済とは何か」P62など参照)

このようにして会計制度が事態を悪化させた。

余談だけど、保険機構の保護を背景に預金を集めその金でギャンブルをするという全く同じ構図が90年代の日本でも繰り返されることになる。

日本においては会計制度が原因で不良債権処理が先延ばしされることになった。前に書いたとおり、引当金の「ある一定額」までは損金に算入され課税対象利益から差し引かれることが不良債権の処理を遅らせる一因となった。

90年代のアメリカのITバブルではストックオプションを企業のコストに換算しないという会計制度によって、企業の利益が実際よりも水増しされることになった。株価上昇の一因となった。(「人間が幸福になる経済とは何か」の第5章参照)

企業は利益を最大化するように行動する。しかし「利益」をどうやって計るかは結構難しい。そのものさしの役目をするのが会計制度になる。利益の計り方が変われば、利益を最大化しようとしている企業の行動も変わってくる。

会計制度は企業のインセンティブ、正確には経営者のインセンティブに影響を与える。経営者が適切な振る舞いをするように会計制度を設計する必要がある。

そんな話。

_ [経済][国内] レコード輸入権創設に係る公正取引委員会の考え方

ARTSの掲示板より。レコード輸入権に関する公正取引委員会の見解。簡潔でなおかつレコード輸入権の問題点の核心を突いている。素晴らしい。

_ コス茶スク水冬の陣関連リンク

何のことかはさっぱり分かりませんが、リンクしなければいけないような気がしたのでリンク。


2003-12-17

_ [ネット] PowerPoint色々

未だに使ったことがない。「PowerPoint絶対主義」もあわせてどうぞ。


2003-12-18

_ [国際] Genocide witnesses 'being killed'

BBC Newsの記事。ルワンダで1994年の虐殺の目撃者が計画的に殺されている疑い。警察は殺人は虐殺とは無関係であり虐殺に対する裁判(Gacaca trials)以降、目撃者の危険が増した事実はないと主張。

■追記。Genocide witnesses 'killed to stop testimony'(Guardian紙)

_ [国際] The impact of hate media in Rwanda

BBCの記事。ルワンダの虐殺においてメディアが虐殺を扇動した。あまつさえ虐殺の「指示」まで出した。

ジェノサイドの丘」などを参照。


2003-12-19

_ [国際] A Young Afghan Dares to Mention the Unmentionable

NYTimes紙の記事。アフガニスタンで開催されているロヤ・ジルガで Farah Province 代表の Malalai Joya氏がムジャヒディーンつまりは「聖戦士」たちを「犯罪者」だと非難して騒動になった。

92年から96年のタリバン政権誕生まで、アフガニスタンではムジャヒディーン同士による内戦が続いた。

わたしは我が同胞に対し、なぜわたしたちの国をこのような状態にした重犯罪人の出席を許し、このロヤ・ジルガの正当性と合法性を疑わしいものにすることを許すのか問い質したい。

(中略)

アフガニスタンの人々が彼らを許したとしても、歴史は彼らを許さない。

議事録

_ [国際] Pakistan Would Forgo Kashmir Referendum

WashingtonPost紙の記事。世界で最も核戦争に近い地域南アジアのカシミール問題に関して、インドに属するかパキスタンに属するかを決めるカシミールでの国民投票をこれ以上求めないことを、パキスタンのペレス・ムシャラフ大統領が示唆した。メディアとのインタビューで答えたもの。

Pakistan can forgo Kashmir plebiscite(DailyTimes紙)

■追記。カシミールでも始まるロードマップ(2003年6月24日 田中宇の国際ニュース解説)

_ [本][ネット] 「母さん」単行本発売

母さん。

_ 今日 すごい 寒い

カレイドスター風に。

_ [ネット]

宣伝。山田社長反応リンク集。僕が作ったんじゃないけど。


2003-12-20

_ [ネット] Google News 活用術

GoogleNewsで検索すると聞いたことのないようなメディアのニュースが結果として返ってくるようになった。検索するメディアを限定する仕組みは一応用意されているけど、いちいちフォームに打ち込むのは面倒くさい。ので、Advanced Google Newsを作った。

例えば、CIAで検索すると、主要メディアの検索結果へのリンクが生成される。

のようにリンク集を作っておいて時々検索すると便利かも。キーワードが偏っているのは置いといて。

_ 結婚式

今日一日だけでもいいから復活してくれないだろうか、ナンシー関。

見れなくてあの世で悔しがっていることでしょう。


2003-12-21

_ [Ruby] 安全な疑似乱数

以下の記述はあんまり信用しないように。

rubyでは疑似乱数にメルセンヌツイスターを採用している。ところで、MTのFAQに「計算量理論的に安全な乱数をそのままでは生成しません」と書かれている。

暗号に使うためには次に何が出るかが予想しにくい疑似乱数を使う必要がある。しかし、疑似乱数が次に出力する数字は絶対に予想可能である。次の数字はすでに決定している。決定していないことには計算機で計算できない。

なので、「予想しにくい」というのは暗号理論の常として計算量理論の言葉に翻訳されて理解される。多項式時間の計算能力をもった敵Aが、理論上の乱数とほとんど区別することが出来ないとき「計算量理論に基づく疑似乱数生成器」という。

 Pr[A(g(S))=1] \; - \; Pr[A(Z)=1] \; < \; \epsilon

gが疑似乱数生成器。Aが0,1を返す多項式時間の敵のアルゴリズム。Zが理論上の一様ランダムな乱数。Prは確率。Sはシード。シードは一様ランダムに選ぶとする。(岡本龍明・山本博資著「現代暗号」P57などを参照)

シードをどうにかして(どんな方法かは良く分からないけど)ランダムに選んで生成器が生成する数列が一様ランダムな乱数と敵に区別が付かなければOK。

MTは連続して生成された 19973ビット(624個の乱数)からステート static unsigned long state[N] を完全に再現できてしまうので、上の条件を満たさない。という意味で安全ではない。

MTで乱数を8個ほど発生させてSHA1でハッシュした結果を乱数として使えば、ステートは敵に推測されない。でもこれが「計算量理論に基づく疑似乱数生成器」だとは「現代暗号」には書かれていない。本当のところを誰か教えて下さい。

rubyだと初期化の手段は srandしか提供されていないので、実質的に2^32通りしか初期状態がない。これだと総当たりで試すことが出来てしまう。 state[N]全部を初期化する手段が必要なのではと思った。 init_by_array相当のやつ。

どういったインターフェースが良いのだろう。srand('hoge')みたいに文字列を与えることを許す?疑似乱数のアルゴリズムに依存したことなので、どういうのが良いのだろう。

_ [本] タリバン

本の画像アハメド・ラシッド著「タリバン」、読了。現在でも読む価値のある本。

カンダハルで決起した小さな学生グループはパキスタンとサウジアラビアの支援を受けて、アフガニスタンのほぼ全土を制圧するまでになる。アメリカもこれを黙認した。

クリントン政権は、明らかにタリバン寄りだった。タリバンはワシントンの反イラン政策に沿っており、カスピ海からイランを通らず南に向かうどのパイプライン計画を成功させるためにも、重要な勢力だったからだ。

タリバン」 P95

皮肉にも、その後タリバンに対処するためアメリカはイランと接近するようになる(P376参照)。

原書の副題が「イスラーム、石油、そして新たなグレートゲーム」であることからもわかるように、本書の半分はタリバンに関して詳述しているが、もう半分はアフガニスタンを取り巻く国際関係を描いている。

北部での反タリバン同盟のタリバンに対する虐殺と、その報復としてのタリバンの略奪と虐殺。従来のイスラームおよびアフガニスタンの伝統から逸脱した統治。

アフガン戦争時にムジャヒディーンが麻薬を資金源にしていたことをISI(パキスタンの諜報局)とCIAは黙認していた。これはイラン、パキスタンそしてアフガニスタンに大量の麻薬中毒患者を生み出すことにもなる。タリバン政権下でもアヘンは栽培され続けた。

アフガン戦争においてパキスタンとイスラーム諸国、そしてアメリカは大量のイスラーム主義者をアフガン戦争へとリクルートした。その結果、アフガニスタン社会は決定的に変質した。

戦争前、イスラム主義者たちはアフガン社会にほとんど根がなく、CIAからの資金と武器、パキスタンの支援によって、大きな影響力を築いたのだった。伝統勢力とイスラム主義者たちは厳しく戦い、一九九四年までにカンダハルの伝統的勢力はほとんど消滅した。その結果、より過激なイスラム主義者の新たな波、タリバンに自由な活動の場を用意することになった。

タリバン」 P49

タリバンが政権の座を去った現在でも読む価値のある本だと思う。現在でも「新たなグレートゲーム」は続いているのだから。

_ CIAと麻薬

余談だけど、「CIAと麻薬」というのは容易に陰謀論に陥ってしまうフォースの暗黒面みたいは話題だったりする。「CIAと麻薬」の関係を示す明白な証拠は現在のところ無いようだ。アフガニスタンの場合は「みんな知っていたのに、CIAだけが知らないはずがない」ということなんだろう。

またコントラとCIAと麻薬に関しては Gary Webb氏による「Dark Alliance」といういわく付きの本がある。どんな曰くかは田中氏の「復権する秘密戦争の司令官たち」を参照。本人のサイト


2003-12-22

_ [ネット] 物理乱数

乱数を発生させるのに物理的な現象を使う方法がある。でも、01を等確率に出力する物理現象なんてないんじゃないかという疑問が浮かぶ。どうやって割合を修正するんだろう。

答えは簡単。良い疑似乱数との排他論理和を取るんだと教えてもらった。良い疑似乱数は少なくとも01の割合が等確率だから、排他論理和を取ると物理乱数のランダムさと疑似乱数の一様さを兼ね備えた、こくがあってまろやかな乱数を得ることができる。

東芝の物理乱数生成ボード(PCIバス)「ランダムマスター」はひとつ40万円。

で、Linuxの /dev/randomもきっと疑似乱数との xorを取っているんだと思ってソースを見たら、どうもそうではないようだ。


2003-12-23

_ [経済][本] 会社はこれからどうなるのか

本の画像岩井克人著「会社はこれからどうなるのか」をざっと読んだ。

前にエコノミスト・ミシュランの書評に絡めて「僕は『会社はこれからどうなるか』を読んでないのであまりいえないけど、この書評はたぶん妥当。」と書いてそのままになっていた。山形浩生勝手に広報部:部室でも話題になっていたので読んでみた。飛ばし飛ばし。

結論。三輪芳朗氏によって爆撃されるべき本だ。エコノミスト・ミシュランでの田中秀臣氏の書評も手ぬるい。あるいは的を外している。

会社の所有権を議論しているのに、そもそも「所有権」というものに対する分析がない。Demsetz以来の経済学における所有権に関する蓄積が全く議論の中に出てこない。

メインバンク制を無批判に支持しているうえ、メインバンクの意味をほとんど意味不明なまでに広げている。

メインバンクは、会社との長い賃借関係のなかで得た情報をもとに、その経営方針にたいしてアドバイスをあたえ、会社が危機におちいったときには、実質的な所有者として、緊急融資をしたりする

会社はこれからどうなるのか」P105

良く聞かれるメインバンク論の典型だ。しかし、ここで基本的な疑問が生じる。一体全体、銀行の行員が融資先の企業の経営者よりもその企業の経営を良くわかっていて「経営方針にたいしてアドバイスをあたえ」るなんてことが有り得るのだろうか。あったとして、それがうまくいく理由って何だろう。

岩井氏はさらに次のようにまで言う。

いましがたメインバンク制が日本のコーポレート・ガバナンスのなかで中心的な役割をはたしてきた(といわれている)と述べましたが、じつは、メインバンク自身のコントロールは、さまざまな金融規制と行政指導を通して、旧大蔵省がおこなってきましたし、省庁再編の後は、金融庁がその役割の一部をになっています。その意味で、これまでの日本の会社の窮極的なコーポレート・ガバナンスの担い手は、国家官僚であったといえるでしょう。

会社はこれからどうなるのか」P106

戦後の日本経済において「メインバンク制」「系列」「六大グループ」「株の持ち合い」が存在し、かつ重要な役割を果たしたという考え方は、三輪芳朗著「日本経済論の誤解」によって徹底的に論破されている。

また岩井氏は本書でバーリとミーンズによる「所有と経営の分離」を何回も取り上げている。

アメリカの大会社の株式は無数の大衆株主の間に分散され、その経営は株式をほとんど所有していない専門的な経営者によって支配されるようになった

会社はこれからどうなるのか」P90

という考え方である。しかし、本書では全く触れられていないが、三輪氏によればこの現象はDemsetz and Lehn (1985)によって以下のように説明ができる。

Berle and Means が整理した「所有と経営の分離」という観察事実は、各株主、つまり各投資家が自らの利益の実現に忠実に行動した結果であるはずだ。 所有と経営が分離すると株主の利益が損なわれるというなら、投資家が結束したり、分散投資を止めることを通じてこの状態から脱却して株主利益を実現できるはずだ。 そうしないのは、分離した状態の方が自らの利益に合致するはず(ママ)だ。

(中略)

Demsetz and Lehnは大量のデータを用いてこの仮説が成立することを確認したのです。つまり、各社の株式保有構造は、株主利益を最大にするように市場で決定されている。

Manga:5 『外部取締役をふやせ!』ですって?の巻(PDF)」(P17)

最後に三輪氏の以下の言葉を引用する。

「企業は誰のものか?」という問いかけに共鳴される読者は、問いかけの実質的意味を問い返して下さい。

(中略)

「企業は誰のものか?」という問いかけにどのような意味があるでしょうか?「深遠かつ高邁な事項」に思いを馳せているという気分にさせるという満足感だけではありませんか?

日本経済論の誤解」P404


2003-12-24

_ [本] 1970年体制の終焉

本の画像原田泰著「1970年体制の終焉」、読了。なかなか参考になった。しかし、ページ数が少なく食い足りない。

1940年代に戦時体制として出来上がった経済システムが高度経済成長の原動力となり、現代まで連綿と続いているという考え方がある。「1940年体制論」と呼ばれている。

原田氏はこの「1940年体制論」が全くの嘘、デタラメであると主張し、高度経済成長は経済の自由化によってもたらされたと説く。そして、通説とは異なり現在の日本経済の規制の多くは高度経済成長後の1970年代になってできたものであると言い、今後の経済成長のためにどういった規制緩和が必要かを提言する。

日本の経済成長が経済統制ではなく経済の自由化によってもたらされたという考え方は昨日挙げた三輪氏と一致する。また、戦前の日本の銀行業には「銀行と証券」あるいは「長期と短期」を分離するような規制はなかったというのは非常に勉強になった。

アメリカの航空業界の規制緩和は失敗であるといわれることがある。例えばスティグリッツ著「人間が幸福になる経済とは何か」のP137〜など。しかし原田氏によれば、規制緩和により運賃は低下し、競合する路線は増え、利用者が選択できる時間帯は拡大し、安全性も向上したそうだ。

Winston, Clifford「Economic Deregulation: Days of Reckoning for Microeconomists」が参照されていた。

ただ、スティグリッツも問題にしているように「適切な規制緩和」というのは難しく、無闇に規制をなくせば良いというものではない。日本の高度経済成長に関しても、スティグリッツは金融がある程度規制されていることの重要性を説いている。

という風に、本書で取り上げられている話題はどれも一筋縄ではいかない。その割りにはページ数が圧倒的に少なく、各論を論じ切れていないという印象が強い。参考にはなった。

_ [ゲーム] ガチャフォース

ゲームキューブ用ソフト「ガチャフォース」が異常なまでの高評価

GOTCHA FORCE wiki

見たら絶対買いたくなるファンによるプロモーションビデオ

買う。そしてクラブニンテンドーに入る。


2003-12-25

_ [アニメ] 攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX

本の画像最後の巻をレンタルビデオ屋で借りてみた。一応シリーズは通してみたことになる。想像の範囲内の出来。悪くはないけど、だからといってとんがった部分、目を引く所はない作品。かっちりまとまってはいるなあとは思う。ただ、それだけ。

「味があんまりしねーよ・・・このアニメ」

「チガウチガウ!SACはイノセンスと一緒に見ルンデス。」

とかそんな感じだったらいいな。

_ [Ruby] でた

リリース


2003-12-26

_ [本][ネット]

Amazonのレビューで評判の悪い翻訳のリンク集。あと書評リンク集、。


2003-12-27

_ [ゲーム] ガチャフォース

本の画像ゲームキューブ用ソフト「ガチャフォース」、買いました。ファーストインプレッションはなかなか良いです。クラブニンテンドーにも入った。

年末年始はガチャボーグで悪の組織「デスフォース」から地球を救いたいと思います。

_ [本] 人口減少の経済学

本の画像原田泰著「人口減少の経済学―少子高齢化がニッポンを救う!」、読了。幅広い情報がコンパクトに収まっている。

日本において人口の減少が現実問題として迫ってきている。副題にもあるとおり、原田氏は人口減少つまり少子高齢化は対処可能な問題であり、それどころか規制緩和で生産性を上昇させるなど上手に対処すれば、日本経済は今よりも豊かになると言う。

原田氏によると、育児手当てで出生率を人口維持が可能な2.08にまでを上げようとすれば、およそ毎年32兆円の財政負担が必要となるそうだ。これはおよそ非現実的な数字だ。つまり人口減少は避けることが出来ない。

そこで人口減少への対処として、規制緩和による労働生産性の上昇が重要であることを強調する。また各国とのデータの比較により日本には労働生産性の上昇の余地が十分にあることを原田氏は示す。

3、4、5章ではそれぞれ「女性の社会進出」、「老人医療制度」、「年金制度」を扱っている。

女性の社会進出を促して労働力の不足を補う。アメリカやフランスの例を上げて女性の社会進出がどのように達成されたかを概観する。『アメリカの保育の実態をみてみると、意外なことに、約半分が両親または親戚による保育となっている』(P95)そうだ。フランスでは就学前教育が保育機能を併せ持つようになり、女性の社会進出が進んだ。

この他、「老人医療は各国と比べても金が掛り過ぎている。」、「日本の年金は世界一高い」など各国とのデータを比較した有益な情報が多い。

ただ年金制度に関しては、賦課方式と積立方式の決定的な違いについて議論されていないのが気になる。賦課方式は、経済全体から見れば勤労世代から高齢世代への所得の再分配でしかない。しかし、積立方式の場合、積み立てられた資金は国内の経済活動に実際に投資される。この違いは年金制度で動くお金が巨大なため、マクロ経済に与える影響は無視できない。賦課方式では、国の経済全体で見た場合、貯蓄率が低下するという弊害もある。

例えば、竹森俊平氏は「世界経済の謎」の中で人口が減少する社会においては積立方式の方がのぞましいと書いている。

とはいえ、人口減少をテーマにして幅広い情報がコンパクトにまとまっていて今後議論する上で何かと便利な本であることに変わりはない。ただ日本の高齢化のスピードは他の先進国と比べても圧倒的に早いので、悠長に議論している暇はあんまりない。

_ [国内] 中坊弁護士の起訴猶予処分の意味について考える

山下幸夫弁護士による文章。

ほとんどの人は覚えていないと思いますが、中坊氏は今年の10月10日弁護士を廃業されました。それも突然。どういう理由かは新聞を読んでいるだけでは良くわからなかったと思います。この文章を読むと良くわかります。

魚住昭著「特捜検察の闇」にさらに詳しい経緯が書かれています。

■追記。中坊氏起訴見送りで申し立て=住管機構絡みの詐欺告発(時事通信)


2003-12-28

_ [本][経済] 良い政策悪い政策

本の画像アラン・ブラインダー、ジャネット・イェレン著「良い政策悪い政策」、読了。ページ数の薄い本だけど、中身は非常に濃い。読みこなすにはかなりの労力が必要。

「素晴らしい10年」と「狂騒の90年代」

1994年から96年までFRB副議長だったブラインダーと、1994年から97年までFRB理事だったイェレンによる90年代のアメリカ経済の「素晴らしい10年」を分析した本。90年代にFRBが何を考え、どのように行動し、その結果はどうだったか、そしてそれをどのように評価すべきかを少ないページ数ながら、当事者の手により克明に描いている。

著者たちはまずクリントン政権発足時の経済状況を概観しつつ、財政赤字削減政策がなぜ債権市場で金利に低下をもたらしたかを説明する。そして、FRBの金融政策とその評価に移っていく。

著者たちはFRBの政策の分析と評価の手段として、2つの計量経済モデルを頻繁に用いている。FRBが実際に行った金融政策とそうでない政策をモデルに入力して、GDPやCPIや失業率を比べることで政策を評価している。

また議事録を丹念に参照し、FOMC(連邦公開市場委員会)で行われた議論を追っていく。

著者たちのFRBに対する評価は当然と言えば当然だか一貫して好意的である。そして読者はこれに同意するだろう。アメリカ経済は90年代に近年稀に見る成長を遂げたのは紛れもない事実だからだ。そして、それは単に「運が良かったから」だけではない。

本書で説明されているとおり、労働生産性が急に上昇し、NAIRUが一時的に下がったとしても、いずれは賃金も上昇しNAIRUはもとに戻ってしまう。つまり、アメリカ経済が90年代の繁栄を手にするためには、FRBが正の生産性ショックを見逃さず、NAIRUの低下度合を正確に見極め、的確に金融を緩和する必要があった。そして、FRBはその難題に立ち向かい、成功した。

その意味で解説の渡辺努氏のように単に「運が良かったから」と本書を読んでしまうのは間違いだと僕は思う。

さて、本書をさらに楽しむために、このように「成功した」FRBを批判する人物の本を読むのが良い。そうスティグリッツの「狂騒の90年代(邦題:人間が幸福になる経済とは何か)」だ。この本の中でスティグリッツはFRBの成果を称えると同時に、FRBの予防的な金融政策に対して非常に批判的だ(P105)。94年から95年にかけての利上げに対しても評価していない(P110)。なによりFRBの独立性の必要性に関して懐疑的だ(P111)。以上の点でスティグリッツの見解はブラインダーとは真っ向から対立する。

いずれにしろ、アメリカの90年代は日本の90年代と同じく後世の経済学者に格好の研究材料を、あるいは論争の種を提供したことだけは間違いないようだ。


2003-12-29

_ [経済] The Story of a Bubble

The New York Review of Books に掲載のYale大学のNordhaus氏による書評。全くの偶然だけど、昨日の僕の日記と同じように、ブラインダー、イェレン「良い政策悪い政策」とスティグリッツ「人間が幸福になる経済とは何か」の2冊を読み比べながら、90年代のアメリカ経済を考察している。

blogでの反応。Economist vs. Economist: Dissecting the Roaring 90'sThe 1990s Boom

_ [本][経済] 金融政策の理論と実践

本の画像アラン・ブラインダー著「金融政策の理論と実践」、読了。昨日取り上げた「良い政策悪い政策」の著者による金融政策の実践的なテキスト。ちょっとテクニカル。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスでのブラインダーのロビンズ記念講演を本にまとめたもの。ロビンズ記念講演はブラインダーの他にもピーター・テミン、ポール・クルーグマンなどの著名な経済学者が講師を務めていて、それぞれテミン「大恐慌の教訓」、クルーグマン「通貨政策の経済学」として出版されている。

金融政策の理論と実践」の中でブラインダーはいくつかの興味深い主張をしている。

まず、金融政策に関する動学的非整合の議論は見当違いなものだと切って捨てる。

動学的非整合の考え方をキッドランドとプレスコットは金融政策に導入した。予期しないインフレを起こせば一時的に失業率を減らすことができる。中央銀行は人気を得ようとそのような政策を取りがちである。しかし、人々は中央銀行の行動を読みとり、インフレを予想してしまうので、インフレが高止まりしてしまう。これを金融政策に関する動学的非整合の問題という。これを防ぐためには中央銀行をルールで縛る必要があると言う経済学者もいる。

しかし、現実の中央銀行はインフレを起こすどころか常にインフレを起こさないよう細心の注意を払っている。だから、中央銀行をルールで縛る必要などないし、縛ってはいけない、とブラインダーは言う。確かに、インフレ好きの中央銀行なんて聞いたことがない。

ブラインダーは予防的な金融政策の重要性を説く。早目の金融引き締めは批判にさらされることが多いけど、安定的なマクロ経済を達成するためには必要だと主張する。

中央銀行の政治からの独立性は必要不可欠だと言う。また、中央銀行は金融市場からも独立であるべきだと言う。中央銀行は金融市場が予想している通りの政策を行いがちだと自らの経験をもとにブラインダーは指摘し批判する。金融市場は気まぐれなので、それに引きずられるような金融政策は到底受け入れられるものではない。

金融政策のルールと裁量に議論に関連してインフレ目標政策はルールではなく、裁量だと言う。

FRBは「物価の安定」を目指すべきである。なぜなら連邦準備銀行法にそう書いてあるから。それが嫌なら(例えば3%のインフレでFRBが満足するべきだというなら)、法を改正するべきだとブラインダーは言う。

という風に、ブラインダーは独立した中央銀行に多大な裁量を与える現在の中央銀行制度に対して肯定的である。言っていることに筋は通っている。でも、政治から独立している中央銀行の政策によって苦境に立たされている日本経済の一員としては、どうも同意しかねる点が多い。スティグリッツやクルーグマンも中央銀行の独立性の必要性に懐疑的である。

また、法律に書いてなくても低めのインフレを中央銀行は目指すべきだということは日本経済の現状を見れば明らかだと思う。法律に書いていないことを目標に設定するのは法治国家の観点からみれば確かにおかしい。というわけで、法律でインフレ目標を明示しつつ、中央銀行に裁量をあたえれば、ブラインダーも文句はないだろう。

ただ、中央銀行の独立性の問題はさらなる議論が必要。というか、容易に結論に至らない難問だと思う。

_ [経済][国内] 竹森俊平@読売新聞

日本銀行日本政府の為替介入に関して。なかなか皮肉が効いている。

日本政府が円売り・ドル買いに使った二十兆円だが、政府が買ったドルは米国債に運用され米国の減税策をサポートしている。また政府が短期証券を発行して円売り介入資金を調達するのに合わせて、日銀は買いオペを行い政府をサポートしてきたふしがある。ようするにまわりまわって日銀がスポンサーとなって米国が減税策を実施している。それで問題がないというのなら、今度は日銀に、日本政府が日本での現在策を実施するのをサポートしてもらってはどうか。二十兆円の減税なら効果があると思うが。

竹森俊平:改革手詰まりと為替政策 読売新聞12月29日

■訂正。為替介入の主体は日本銀行じゃなくて、財務省ですね。参照

_ [ネット] The Trembling of a Leaf

謎工さんのblog。


2003-12-31

_ [本][経済] 日本再生に「痛み」はいらない

本の画像岩田規久男、八田達夫著「日本再生に「痛み」はいらない」、読了。リフレ派のボス、岩田規久男氏の待望の新刊。八田氏とのコンビはなかなか強力。前半はリフレ政策の復習。後半は都市政策を中心とした政策提言。リフレ政策と対になる政策として規制緩和でなく「都市再生」を全面に押し出したのが目新しい。

前半部分はリフレ政策の復習。「デフレ不況の実証分析」からグラフを引用しつつデフレの弊害をコンパクトに説明している。

銀行の自己資本強化のための公的資金注入は間違っていると、岩田氏は政府の金融行政を批判している。銀行に対して繰延税金資産の還付で行うべきであり、無税引当および無税償却を認めるべきだと言う。

ここら辺の議論は難しい。ただ、RITEIの高橋洋一氏は引当は有税、償却を無税にすべきだと書いていて、岩田氏とは意見が違う。つまり、「不良債権処理」とは直接償却であるべきだ。そうでないと土地が塩漬けになってしまう。直接償却を促すために、本来引当の段階でなく、直接償却の段階で税を控除することによって、不良債権処理は促進されるべきだと、高橋氏は書いている。

岩田氏の提案がモラルハザードを引き起こさず銀行の自己資本を強化するためなのか、不良債権処理の処理の枠組みのためなのかがよく分からないので何とも言えない。

後半の都市政策を中心とした政策提言が本書のメインと言える。今までのリフレ本は、原田泰氏の著作などのように規制緩和を中心として政策を提言していた。けど、この本の政策提言は都市政策を中心として年金や税制に関する提言も盛り込むことで、著者たちも書いている通り「政策パッケージ」と言って良いものとなっている。

八田氏は東京を再生させるためには、東京への集積をさらに促進するべきであり、その障害となっている容積率の規制を変えるべきだと主張する。また、都市の容積率を単に「規制緩和」するのではなく、「規制改革」することによって、都市への住居系ビルの建築を促そうとも提案する。

東京へ人が集積すればするほど、集積の利益が生まれ、生産性が向上し、新しい産業も生まれるだろうと八田氏は言う。サービス産業においては集積していることが決定的に重要であると説く。そして、東京への集積を阻害しないような政策こそが東京という都市を再生させると言う。

これは東京意外の都市に関しても同じだと八田氏は言う。例えば、大阪に関しても梅田、新大阪、そして南港とバラバラの土地に人を分散させる現在の都市政策を批判する。もっと集積させるべきだと言う。

そのためには御堂筋の容積率を緩和して、地下鉄御堂筋線を複々線化して快速を走らせ、新幹線の駅を梅田にすること提案する。関空は貨物専用の空港にしてこれ以上拡げるなとも言っている。

関空を貨物専用の空港に…。個人的にはこれが一番うけた。

税制に関しても、自営業者に益税をあたえる今の消費税を批判し、税率を上げれば税収は増えると消費税シフトの議論を論破し、所得税の累進税率の引き上げを提案する。相続税の引き上げも提案。

感想。

本書の後半で述べられている政策提言は、経済学的にはまだまだ議論を必要とするものが多い。例えば、相続税に関してMankiwは廃止すべきだと述べている。

しかし、重要なことは、本書で述べられている個々の政策に経済学の考え方から導かれる論理の筋が一本びしっと通っていることだと、僕は思う。それによって本書の政策提言は、相矛盾したバラバラの政策のあつまりではなくて、ひとつのまとまった考え方の明解な政策パッケージとなっている。政策が相互に影響しあって相乗効果を生み出すことも期待される。

小泉首相の「構造改革」に対抗できる、政策パッケージだと断言できる。「都市再生」を全面に出して「構造改革」との違いを意識的に出している点からも、それを意図して書かれたのだろうと思われる。Amazonのレビューにもあるように「なぜ総選挙に間に合うようにもっと早く出してくれなかった」んだろう。それだけが残念。

_ いろいろ

最近経済関係の本のことばかり書いているのは、単に今年読み残した本を、まとめて読んでいるだけです。経済関係以外も含めて、まだ十数冊読み残っています。だからどうだというわけではないですが。

Amazonで中古本を買い始めたのが、読み残しの本が増えた一因でもあります。というか、あれはやばい。本好きには特にやばい。

Amazonのアソシエイトプログラムを利用して、書影を入れることにしてみました。見ればわかりますか。

_ [ゲーム] 2003年度ゲーム大賞

個人の日記が選んだ、個人的なゲーム大賞。

2003年度ラヴフールゲーム大賞

Game Of The Year 2003@がらくたな日常。

今年は比較的ゲームをしなかったので、ベスト3を選ぶことさえ個人的には難しかったりする。「グランドセフトオート3」しか記憶に残っていない。あと、今年発売じゃないけど、「わいわいゴルフ」と「ミスタードリラードリルランド」は面白かった。安いし。

今は「ギフトピア」と「ガチャフォース」をプレイ中。「グランドセフトオート3」はクリア諦めた。

_ [アニメ] 赤毛のアン

本の画像正月で面白いテレビ番組がないのでレンタルビデオ屋で借りてきた。

日本アニメ史上に残る名作。高畑勲がまだ天才だったころの作品。山田栄子の脳天突き抜けボイスがアンにハマっている。

第1巻は第1話「マシュウ・カスバート驚く」から第5話「マリラ決心する」までを収録。視線、しぐさ、表情、間合い、脚本、美術。どこをどう切りとっても名作。この溢れるばかりの高畑氏の才能は一体どこへ行ってしまったのだろう。

  • 演出:高畑勲
  • 作画監督・キャラクターデザイン:近藤喜文
  • 場面設定:宮崎駿
  • 美術監督:井岡雅宏

_ それでは

みなさん、良いお年を。


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