アラン・ブラインダー、ジャネット・イェレン著「良い政策悪い政策」、読了。ページ数の薄い本だけど、中身は非常に濃い。読みこなすにはかなりの労力が必要。
「素晴らしい10年」と「狂騒の90年代」
1994年から96年までFRB副議長だったブラインダーと、1994年から97年までFRB理事だったイェレンによる90年代のアメリカ経済の「素晴らしい10年」を分析した本。90年代にFRBが何を考え、どのように行動し、その結果はどうだったか、そしてそれをどのように評価すべきかを少ないページ数ながら、当事者の手により克明に描いている。
著者たちはまずクリントン政権発足時の経済状況を概観しつつ、財政赤字削減政策がなぜ債権市場で金利に低下をもたらしたかを説明する。そして、FRBの金融政策とその評価に移っていく。
著者たちはFRBの政策の分析と評価の手段として、2つの計量経済モデルを頻繁に用いている。FRBが実際に行った金融政策とそうでない政策をモデルに入力して、GDPやCPIや失業率を比べることで政策を評価している。
また議事録を丹念に参照し、FOMC(連邦公開市場委員会)で行われた議論を追っていく。
著者たちのFRBに対する評価は当然と言えば当然だか一貫して好意的である。そして読者はこれに同意するだろう。アメリカ経済は90年代に近年稀に見る成長を遂げたのは紛れもない事実だからだ。そして、それは単に「運が良かったから」だけではない。
本書で説明されているとおり、労働生産性が急に上昇し、NAIRUが一時的に下がったとしても、いずれは賃金も上昇しNAIRUはもとに戻ってしまう。つまり、アメリカ経済が90年代の繁栄を手にするためには、FRBが正の生産性ショックを見逃さず、NAIRUの低下度合を正確に見極め、的確に金融を緩和する必要があった。そして、FRBはその難題に立ち向かい、成功した。
その意味で解説の渡辺努氏のように単に「運が良かったから」と本書を読んでしまうのは間違いだと僕は思う。
さて、本書をさらに楽しむために、このように「成功した」FRBを批判する人物の本を読むのが良い。そうスティグリッツの「狂騒の90年代(邦題:人間が幸福になる経済とは何か)」だ。この本の中でスティグリッツはFRBの成果を称えると同時に、FRBの予防的な金融政策に対して非常に批判的だ(P105)。94年から95年にかけての利上げに対しても評価していない(P110)。なによりFRBの独立性の必要性に関して懐疑的だ(P111)。以上の点でスティグリッツの見解はブラインダーとは真っ向から対立する。
いずれにしろ、アメリカの90年代は日本の90年代と同じく後世の経済学者に格好の研究材料を、あるいは論争の種を提供したことだけは間違いないようだ。
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