脳ざらし紀行


2009-01-04

_ 去年はよくものが壊れた

去年はよく電化製品が壊れる年でした。落雷でPCとADSLモデムとスイッチングハブが壊れました。iPod nano 2Gもなぜだか壊れました。HDDレコーダーの冷却ファンから異音がするようになりました。

極めつけは12000時間もつはずの東芝の蛍光灯メロウZプライドが年末に切れたことでしょうか。使い始めたのが2007年10月4日だから、多めに見積もって1日12時間としても、5000時間くらいしか使っていないことになるんですが。これだと従来品と変わらない。

今度はパナソニックのパルックプレミアLを買ってみました。

とか書いていたら新年早々Xbox360が前面のライトを4分の3赤く光らせながらお亡くなり。Fallout 3をやっている途中だったのに。


2009-01-06

_ タレブ VS マートン

ちなみに、タレブ自身がアドバイスしたファンドは、2008年は10月までに50%の収益率を上げたという

今回の金融危機の一般人にとっての教訓は、「たくさん儲けている投資家の話の方がより信頼できるというわけでもない」ってことだと思うのですが。なのにどれだけ儲かっているかを根拠のひとつにされても……、という感じがします。

一般論として、どうも人間には「儲け話のほうを信じる」というある種のバイアスがあるみたいですね。本屋でも「絶対損するからFXはやめとけ」という本よりも「絶対儲かるFX」という類の本の方をよく見かけますし。

ちなみに元の Taleb-Derman の論文は Ruffino-Treussard の論文でも指摘されているとおり、論理の飛躍がありオプションの価格公式をちゃんとは導出できていません。要するに間違っています。put-call parityというのは無裁定条件から導出されるものです。オプションが複製可能という仮定を外して、無裁定条件だけを仮定しても、オプションの価格は一意には決定できません。Taleb-Derman の論文でも未知変数が2つあるのに方程式はひとつだけなので、方程式の解を一意に求められてなくて、価格を一意に決定できていません。

なので「一般的な仮定(非完備市場)の下では金融工学を使ってオプションの価格を決定することはできない」という主張だったら数学的に正しいのですが、「一般的な仮定(非完備市場)の下でもっと簡単にオプション価格を求めることができる」という彼らの主張は間違いです。


2009-01-09

_ アニメ聖地の成立とその展開に関する研究(PDF)

なんかすごい。

角川あたりが間違って映画化しそう。その時は商工会長役は岸部一徳かなあ。

もともとお金儲けの仕方がうまい人たちが作っているなあと感心しながら見ていたけど、ここまでとは。脱帽。


2009-01-11

_ FRBは大してお金を刷っていない(本当)

以下はFRBが保有する資産。見てのとおり去年の9月中ごろからすごい勢いで増えています。単位は10億ドル。円換算でだいたい120兆円くらい増えています。

FRBはこれらの資産を買うのにドルを刷ってまかなっているんだろうと、普通だったら思うところだけど、実は違います。以下がFRBの負債。ドルを表す灰色が全然増えていないことが分かります。

グラフはEconbrowserからの引用しました。

_ ドルを刷らずに金融パニックを抑える魔法のような方法

超短期での金融危機(というかパニック)への対処と、短期あるいは中期での恐慌対策は分けて考える必要があります。で、上のバランスシートの拡大は前者に相当します。

簡単のために米政府とFRBを一体として考えると、彼らは

  1. リスク回避のために国債に殺到した投資家に、国債を新たに発行して国債を売り
  2. 得た代金を投資家が逃げ出した市場に投入

ということをやったことになります。つまりリスクを嫌がる投資家の代わりにFRB+米政府がリスクを肩代わりした訳です。

また彼らは上のスキームの他にも、

  1. 超過準備に付利をすることによって銀行から超過準備を集めて
  2. 得た流動性を投資家が逃げ出した市場に投入

ということもやっています。つまりリスクを嫌がる銀行の代わりにFRB+米政府がリスクを肩代わりした訳です。

ここで、上の2つの方法により、インフレ圧力をあまり生まないことに注意してください。これは偶然ではなくて、たぶん彼らは意図してこれらの手段を採用したんだと思います。現在のような危機においては年15%とか20%のインフレは些細な問題のはずなんですが、政治的には許されません。つまりインフレを生むような方法によるパニックの対処には政治的な上限があるのです。

この政治的な上限により中央銀行は、市場から「リスクを肩代わりするといっても限度がある」と足元を見られる危険性があります。パニックを抑えるためには、銀行の取り付け騒ぎの対策と同様「最後は中央銀行が引き受ける」ということを市場に信頼させなければいけません。そのためにパニックを抑える手段は、インフレ圧力を伴わず、短期あるいは中期での恐慌対策とある程度分離されている必要があるのです。上で説明した二つの方法は、まさにこの分離を実現する方法だったのです。

■追記。マネーサプライがまったく増えないというのは間違いの気がしますが、まあ議論としては大体あっていると思います。

■追記。やっぱり間違っているので書き換え。

_ 紐を押すことはできるだろうか

Yes, they can.

FRBの対策にもかかわらずBaa社債の金利が上がり続けていることを指摘して、紐を押すことはできるだろうかとクルーグマンは疑問を呈していた。のだけど、実際金利は下がり始めているみたい。

結論、紐は押せる。

_ 魔法なんてないよという意見

上でも同じ記事にリンクしたけど、EconbrowserのFRBの今のやり方は成功していないし、まずいというエントリ。Federal Reserve balance sheet

himaginaryさんの日本語による要約

僕は上で説明したとおり金融パニックへの対処と、短期あるいは中期での恐慌対策は分けて考えるべきだと思っています。短中期での恐慌対策が今まで十分だったかどうかはよくわかりません。結果論で言えば足りなかったんでしょうが。

_ はじめてのはてブコメ返答

財務省に対する債務(緑)が多いのは確かですが、reserve(黄色の部分)は紙幣じゃないけどマネタリーベースの一部であり増えてますよね。「大して刷っていない」というのはやや不正確でしょう。

http://bbeta.hatena.ne.jp/kmori58/20090111#bookmark-11624252

FRBは現在超過準備にも利子を付けてますので、マネタリーベースを従来どおりの意味で使うことができなくなっています。つまり利子がついていない中央銀行の当座預金にお金がつみあがるのは金融緩和の印だったのですが(2001年から2006年の日銀の量的緩和とか)、現在は日米両方とも当座預金に利子がついているので、超過準備の量の増加だけでは金融緩和の印だとはいえなくなっています。質への逃避かもしれないのです。

で、上のグラフの超過準備の増加は質への逃避だろうというのが、Federal Reserve balance sheetなどの話。ドラエモンの話も参照


2009-01-13

_ 失業率を3%にまで下げられるような気がしてくる画像

ただし1997年のデータは除く。


2009-01-15

_ FRBが1ドル印刷すると5セントこの世から消える(ように見える)

アトランタ連邦準備銀行のsenior vice presidentのブログで、貨幣乗数の落ち込みが話題になっていた。貨幣乗数とは中央銀行が1ドル印刷したら市中にどれだけマネーが流通するかを表す数値。その定義からも1以上になるはずのものがそうでなくなっているから不思議だねという話。

信用創造の機能が徹底的に壊れたと解釈できないこともないけど、従来のベースマネーの定義が超過準備への付利により使えなくなったと解釈するのが自然だと思います。


2009-01-17

_ 日本の景気予想

ここ2年くらいの景気動向指数(CI,先行)と3ヵ月後の名目GDPをプロットしたらきれいな直線になりました。先行指数はすでに分かっているので、その直線を伸ばして08年10-12月(未発表)と09年1-3月の名目GDPを予想してみました。

ちなみに08年11月に発表された最新の CI は 81.5 です。どれだけひどくなるかを考えると、ちょっと恐くなってきます。

まじめな予想はもっとひどそう

_ FRBが何をやろうとしているか

リッチモンドFRB理事のスピーチ。前に説明した、「中期での金融政策と足元の信用収縮への対策は違う。現在FRBのバランスシートの拡大は後者への対応」というようなことが書いてあります。

But monetary policy and credit programs do two different things. Monetary policy stabilizes the purchasing power of money over time by keeping the price level stable and relatively predictable, and by doing so, contributes to maximum sustainable economic growth. Credit policy is also aimed at promoting growth, but it is more a form of fiscal policy in that it uses the public sector's balance sheet to alter the allocation of resources.

バーナンキのスピーチでも「金利が0になっても期待に働きかけることで、金融緩和を実施します。それとは別に足元の金融市場の混乱を収めるためにバランスシートの拡大を使います」というようなことを言っています。

Other than policies tied to current and expected future values of the overnight interest rate, the Federal Reserve has--and indeed, has been actively using--a range of policy tools to provide direct support to credit markets and thus to the broader economy. As I will elaborate, I find it useful to divide these tools into three groups. Although these sets of tools differ in important respects, they have one aspect in common: They all make use of the asset side of the Federal Reserve's balance sheet. That is, each involves the Fed's authorities to extend credit or purchase securities.

「税金で○○○を救済します」と言うとものすごい政治的な抵抗が沸き起こります。けど、「財務省が債券を発行してそれをFRBが引き受けて、払った代金は財務省の口座に置いたままにして、債券の方は市場に放流して、得た資金を金融市場にぶち込みます」と言っても、なんだかよく分からないから、政治的な抵抗がおきません。うまい方法を考えたもんです。

とはいえ、現在のように金利がゼロで、FRBのバランスシートを見ても何やっているか説明されないとよく分からない状況で、FRBがどれくらい金融緩和をしたか(するつもりか)を伝える手段がないのは問題です。金利の引き下げは金融緩和の分かりやすいシグナルになっていましたが、今からは何を使うんですかねえ。ちょっと難しい。

_ 原油高の影響?

米国のマネーサプライ(M2)の伸びが去年の中ごろに低くなっているんですが、やっぱり原油高を気にして金融緩和のスピードを緩めちゃったんですかねえ。今から振り返ると痛恨のミス。


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