脳ざらし紀行


2003-12-23

_ [経済][本] 会社はこれからどうなるのか

本の画像岩井克人著「会社はこれからどうなるのか」をざっと読んだ。

前にエコノミスト・ミシュランの書評に絡めて「僕は『会社はこれからどうなるか』を読んでないのであまりいえないけど、この書評はたぶん妥当。」と書いてそのままになっていた。山形浩生勝手に広報部:部室でも話題になっていたので読んでみた。飛ばし飛ばし。

結論。三輪芳朗氏によって爆撃されるべき本だ。エコノミスト・ミシュランでの田中秀臣氏の書評も手ぬるい。あるいは的を外している。

会社の所有権を議論しているのに、そもそも「所有権」というものに対する分析がない。Demsetz以来の経済学における所有権に関する蓄積が全く議論の中に出てこない。

メインバンク制を無批判に支持しているうえ、メインバンクの意味をほとんど意味不明なまでに広げている。

メインバンクは、会社との長い賃借関係のなかで得た情報をもとに、その経営方針にたいしてアドバイスをあたえ、会社が危機におちいったときには、実質的な所有者として、緊急融資をしたりする

会社はこれからどうなるのか」P105

良く聞かれるメインバンク論の典型だ。しかし、ここで基本的な疑問が生じる。一体全体、銀行の行員が融資先の企業の経営者よりもその企業の経営を良くわかっていて「経営方針にたいしてアドバイスをあたえ」るなんてことが有り得るのだろうか。あったとして、それがうまくいく理由って何だろう。

岩井氏はさらに次のようにまで言う。

いましがたメインバンク制が日本のコーポレート・ガバナンスのなかで中心的な役割をはたしてきた(といわれている)と述べましたが、じつは、メインバンク自身のコントロールは、さまざまな金融規制と行政指導を通して、旧大蔵省がおこなってきましたし、省庁再編の後は、金融庁がその役割の一部をになっています。その意味で、これまでの日本の会社の窮極的なコーポレート・ガバナンスの担い手は、国家官僚であったといえるでしょう。

会社はこれからどうなるのか」P106

戦後の日本経済において「メインバンク制」「系列」「六大グループ」「株の持ち合い」が存在し、かつ重要な役割を果たしたという考え方は、三輪芳朗著「日本経済論の誤解」によって徹底的に論破されている。

また岩井氏は本書でバーリとミーンズによる「所有と経営の分離」を何回も取り上げている。

アメリカの大会社の株式は無数の大衆株主の間に分散され、その経営は株式をほとんど所有していない専門的な経営者によって支配されるようになった

会社はこれからどうなるのか」P90

という考え方である。しかし、本書では全く触れられていないが、三輪氏によればこの現象はDemsetz and Lehn (1985)によって以下のように説明ができる。

Berle and Means が整理した「所有と経営の分離」という観察事実は、各株主、つまり各投資家が自らの利益の実現に忠実に行動した結果であるはずだ。 所有と経営が分離すると株主の利益が損なわれるというなら、投資家が結束したり、分散投資を止めることを通じてこの状態から脱却して株主利益を実現できるはずだ。 そうしないのは、分離した状態の方が自らの利益に合致するはず(ママ)だ。

(中略)

Demsetz and Lehnは大量のデータを用いてこの仮説が成立することを確認したのです。つまり、各社の株式保有構造は、株主利益を最大にするように市場で決定されている。

Manga:5 『外部取締役をふやせ!』ですって?の巻(PDF)」(P17)

最後に三輪氏の以下の言葉を引用する。

「企業は誰のものか?」という問いかけに共鳴される読者は、問いかけの実質的意味を問い返して下さい。

(中略)

「企業は誰のものか?」という問いかけにどのような意味があるでしょうか?「深遠かつ高邁な事項」に思いを馳せているという気分にさせるという満足感だけではありませんか?

日本経済論の誤解」P404

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