2005年2月25日の読売新聞を読んでいると解説面で三浦潤一氏によるニッポン放送の新株予約権に関して以下のような解説があった。
株の価値を計る指標に、利益を発行済株式で割った一株当たりの利益がある。ニッポン放送の昨年の三月期決算での連結税引き後利益は34億5700万円で、一株当たりの利益は101.67円だった。だが、新株が発行され、株数が3280万株から8000万株になれば、一株当たりの利益は41円程度に下がり、株の価値は目減りする。
『読売新聞』 2005年2月25日付
これは間違っている。ニッポン放送が新株発行によって得た資金を何の事業にも投資しなかった場合には、一株当たりの利益は確かに減るだろう。しかし、一般的には新しく得た資金を、会社の事業拡大への投資に回して利益を増やそうとするはずだ。それが成功するかどうかは分からないけど、新株発行後の一株当たりの利益はその新事業の成否を加味して予想されないといけない。
株価も下がる。企業の価値を表す株式の時価総額(発行済み株式数に株価を掛けたもの)でみると、ニッポン放送の時価総額は24日の終値で(6280円)ベースで約2059億円だが、株式数が8000万株に増えれば、株価は理論上、2500円程度に下がる計算になる。フジ以外の株主にとって新株予約権の発行は損失につながる。
『読売新聞』 2005年2月25日付
これも間違っている。まず第一に新株を発行して増資した後には自己資本が増えるわけで、その分 株式の時価総額に反映される。2059億円/8000万株 = 約2574円/株 などという単純な計算は成り立たない。分子の2059億円が増資の分だけ増えるはずだ。
一般に、増資前と増資後の株価というのは、増資によって得た資金を会社がどれだけうまく投資するかという投資家の予想に左右される。事業拡大などにより、これまでどおりの一株当たりの利益を稼ぐなら株価は増資前と変わらない。一株当たりの利益が下がると予想したなら、株価は下がるし、一株当たりの利益が上がると予想したなら、株価は上がる。
またニッポン放送の株価が2500円程度まで下落したら一番損するのはフジだ。予約権を行使するならフジは一株当たり5950円で取得するわけだから、それが2500円程度にもし下がったとしたら大損ということになる。フジが予約権を行使したなら、それはニッポン放送が増資によって得る資金を有効に活用するとフジが予想したということだ。自分の予想が外れたら損するのは、まあそれが投資というものだ。
ポイズン・ピルは株式市場の効率を損なうだろうか。前にも書いたとおりポイズン・ピルはあってもなくても株式市場の効率を損なうことはないと僕は考える。しかし、企業が不当に安い行使価格の新株予約権を発行した場合は、敵対的買収の防衛が目的だろうが、単に増資が目的だろうが、市場の効率性を損なう。それは既存の株主から新規株主への所得の移転を意味する。要するに安い株価で株を取得できた新規株主は得するけど、その分 既存の株主は損をする事になる。
買収というの買収対象企業に対する投資だ。投資の基本はリスクの分散だ。巨大企業の買収は、ある特定企業の株式だけに投資を集中するのと同じ事だから、非常にリスクが大きい。失敗することが多いのも当然だ。
企業買収が成功したなら、それは運が良かったか、小さな企業を複数買収してリスクを分散した場合だろう。
自社株買いは株価対策だと説明されることがある。これは間違っている。正確には自社の株式に対する投資だと考えるべきだ。
一般企業は証券会社や投資銀行と違って、他の企業の情報を多くは持っていないし分析する能力もない。だから株式に投資するということは普通しない。しかし、ただ1社に関してだけ非常に正確な情報を持っている。自社に関しての情報がそれ。どんな企業だって、自社に関する経営実態に関してはどこよりも正確な情報を持っているだろう。そして、もし自分の持っている情報に比べて、自社の株価が低かったなら自社の株式は有利な投資先となりうる。株価が低い時に自社の株を買って、高くなってからまた売れば(あるいは増資すれば)、場合によってはそれは自分の本来の事業へ投資するよりも、良い投資先かも知れない。
さて、企業が自社株買いした時に株価が上がるとしたら、本質的には上で書いた仕組みが原因で起こる。一株当たりの利益がどうだとかは関係ない。つまり、どこよりも正確な情報を持っている企業自身が有利な投資先として自社株を買ったということは、現在の株価が低いというシグナルを市場に送ることになる。だから、株価は上昇する。
最近のコメント