脳ざらし紀行


2003-06-30

_ [経済] 重要な「期待」の変化(PDF)

CSFB証券の安達氏の論説。人々の「デフレ期待」に働きかけてデフレからインフレに期待を反転させるようなような政策が必要という話。

例えばアメリカでの大恐慌からの回復は投資が消費に先行するかたちで始まった。これは実際の需要が消費の回復により高まる前に、レジーム(政策体制)の変更によって人々のデフレ期待がインフレ期待へと変化し、それにより投資が呼び戻されたことを意味する。

と大筋では同意なんだけど、記事中に出てくるグラフに関して。 OECDのデータをもとに各国の過去10年間の GDPギャップと GDPデフレーターの平均をプロットしている。安達氏は GDPギャップに比べて日本の GDPデフレーターが低すぎると指摘している。けれど、これって単に OECDの日本のGDPギャップ推定が低い方にバイアスが掛かっているからじゃないのかな。クルーグマンの議論を参照。オークンの法則でだいたい日本の潜在実質GDP成長率は 3.5%〜4.0%として、過去の実質成長率はだいたい 1%くらいだから、GDPギャップは2.5%〜3.0%となって日本は左下に位置することになる。これはOECD各国のトレンドと一致する。

_ [経済] なぜアルゼンチンは停滞し、チリは再生したのか

1910年当時アルゼンチンの一人当たりの GDPはイギリスの8割、ドイツのそれを上回っていた。またその後の成長率も1975年まではイギリスとほとんど同じだった。つまりはアルゼンチンの所得は現在ヨーロッパ並みの水準に達していてもおかしくなかった。逆にチリの所得は1910年当時はアルゼンチンよりも50%以上下回っていたが、現在ではアルゼンチンを上回っている。

この二つの南米の国に一体何が起こったのだろうかという原田氏と黒田氏の論文。

論文では以下のように結論づけている。

アルゼンチン経済は高インフレにより固定相場制を導入。固定相場制にともなう通貨危機。そして元来の介入主義的な経済政策(ペロニズム)により停滞した。

チリの経済はピノチェト政権下での市場経済の追求により高い成長率を実現した。しかしその道のりは平坦なものではなかった。段階的な市場経済への移行。ピノチェトの長期独裁政権の崩壊という政治的な激動の中でもこの高成長は維持されていた。

あとチリはアルゼンチンと同じように高インフレを経験している。現在では為替のペッグ制とインフレ目標政策を導入することでハイパーインフレーションを防いでいるとのこと。インフレ目標政策を採用してもハイパーインフレーションにはならないようだ。

_ [経済] 多くの国々における社会主義

だいぶ前の話題だけど、ヒトラーの経済学に関して。

まず大恐慌の原因から理解する必要がある。大恐慌の原因は各国政府の金本位制への固執であったことは多くの経済学者のコンセンサスを得られている。ピーター・テミン著「大恐慌からの教訓」を参照。金本位制のもとで大量の金を保有していた輸出国アメリカが消極的な金融政策をとったため世界的な金融の引き締めをもたらした。各国政府の金本位制への固執はさらなる金融の引き締めとデフレ期待と恐慌をもたらした。大恐慌からの回復はまずは金本位制からの離脱からはじめなくてはならない。

大恐慌からの教訓」によれば、1933年1月にヒトラーが首相に任命された。『ナチスはただちにその権力の強化と民主主義の破壊に着手した。』これは人々の予想に変化をもたらした。『新たな政府支出の増加が、その効果を十分発揮するまでに時間がかかったにちがいない』。だが1933年の雇用は急速に回復している。人々の予想の変化の結果である。

『組織的な労働組合つぶしは、低賃金と雇用の急速な回復につながった。』

国家社会主義的な経済の統制を強めた。『賃金が国民所得に占める割合は、1932年から1938年の間に64%から57%に減少した。賃労働者に対する税金が高かったために、同じ6年間における消費の国民所得に占める割合は83%から59%にも減少』(p153)

『その一方で、この期間の投資と政府支出の総額は、国民所得の18%から41%に増加した。これはソビエトの第一次5ヶ年計画に匹敵するほどの算出構成の変化である』(p153)

『最初のうちは、政府支出が軍事支出を意味するわけではなかった。住宅、道路建設、自動車工業が景気拡大の重要な源泉であった。』(p155)

『回復が十分軌道に乗っていた1936年を過ぎて初めて、ナチスは戦争準備に取り掛かった。』(p155)

一応強調しておきますが、恐慌からの回復は国家社会主義的な手法だけではありません。金本位制からの離脱と、拡張的な金融政策、それと連動した財政政策によって経済の回復は達成可能です。

さて問題はヒトラーの前任の首相たちを含めなぜ各国政府は金本位制に固執したのだろうかということ。もし経済の回復を達成できていれば、ナチスの台頭を未然に防げたかも知れない。なによりも自身が首相の座を追われることはなかったはずだ。

ノーベル経済学者のマンデルは次のように言い切っている。(黒木さんの掲示板より)

Had the price of gold been raised in the late 1920's, or, alternatively, had the major central banks pursued policies of price stability instead of adhering to the gold standard, there would have been no Great Depression, no Nazi revolution and no World War II.

金本位制が大恐慌の原因というなら次の疑問が自然とでてくる。なぜ彼らは揃いも揃って金本位制に固執したのだろうか。自身の政治基盤を危うくしてまで。というわけで、Temin氏と Eichengreen氏のThe Gold Standard and the Great Depressionを読んでみようかな。

_ [アニメ][まんが] 「まっすぐにいこう。」、アニメ化

少女まんがのアニメ化は結構難しいけど、どうなるんでしょう。

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