脳ざらし紀行


2013-07-22

_ 物理法則の魔術師 宮崎駿の『風立ちぬ』

ネタバレあり。

宮崎駿監督の『風立ちぬ』を観てきました。宮崎アニメの特徴の一つに画面が破綻しないギリギリのところまで物理法則を捻じ曲げることで生じるアニメーションの快楽があると思います。『風立ちぬ』では世界を「主人公の夢の中」「主人公とヒロインの場面」「設計所や試験飛行場」の3つに分けて、それぞれに合わせて物理法則のねじ曲げ方の度合いを変えることによって宮崎アニメの色んな顔を見ることが出来る作りになっています。

「主人公の夢の中」。ここではこれはもう物理法則を無視してやりたい放題です。『未来少年コナン』や『天空の城ラピュタ』のような爽快感があります。

次に「主人公とヒロインの場面、特に避暑地」。ここでは物理法則のねじ曲げ方の度合いは「夢のなか」に比べると控えめになっていますが、ある程度誇張されています。避暑地で主人公とヒロインが再会する場面の風の描写は非常に印象的で『となりのトトロ』の田んぼや里山の上を走る風の描写を思い出させます。同じ避暑地で主人公が出会うドイツ人もやや非現実的に描かれていて、後期宮崎アニメで見られる、『千と千尋の神隠し』の湯婆婆に始まる(?)表情の描かれ方がされています。主人公とヒロインが紙飛行機でイチャコラするシーンでも現実をギリギリ逸脱していないアニメーションになっています。あと主人公とヒロインが初めて出会う関東大震災の場面もやはり物理法則をねじ曲げ方て描かれているように僕には見えました。

最後が「設計所や試験飛行場、黒川邸」。ここではできるだけ現実的な物理法則の下でのアニメーションが志向されています。主人公が自転車に乗る場面も出てきます(『耳すま』『耳すま』(笑))。終盤の黒川邸での結婚式の抑制されたアニメーションは非常に良いです。

観客を飽きさせないためには、不要な場面を切って次々シーンを切り替えていくのが定石です。この映画ではそれだけでなく3つの世界での物理法則を切り替えることで、現実世界の閉塞感やそこから「夢の中」へ移った時の開放感、「主人公とヒロイン」の出会いの場面の感情の起伏などが描かれているわけです。

まさしく天才アニメーション作家宮崎駿の傑作です。

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