脳ざらし紀行


2004-05-14

_ [国内] 幇助犯の裁判

Winny の作者の金子氏が裁判で争うのかどうかは分からないけど、争うとしたら著作権よりも刑法の幇助に関する細かいところが争点になりそう。

で、今回の件に限らない一般的な裁判に関する素人の疑問。「幇助犯の違法性は正犯に従属する」のはいいとして、幇助犯の裁判で正犯の違法性を争うことってできないんだろうか。訴訟戦略としてするべきかどうかは置いといて。

「きみの違法性は正犯の裁判でもう決まっちゃってるから」と言われると、幇助犯として「ちょっと待て」と言いたくなる。例えば正犯が訴訟戦略として違法性では争わず、量刑のみで争った場合。幇助犯としては裁判で争われもせずに自分の違法性が確定してしまうのは納得できない。

普通は正犯と幇助犯の裁判を統一して行うからこういった問題は起きないのかな。

_ [国内] 刑法のお勉強

しこしこと刑法のお勉強。2ちゃんねるのスレを読んで、検索して、教科書読んで、判例時報を探して。

Q.著作権に幇助の規定がないけど、なんで逮捕されたの。

A.刑法第8条「この編の規定は、他の法令の罪についても、適用する。ただし、その法令に特別の規定があるときは、この限りでない。」により、刑法は他の法令の罪についても適用されるから。

Q.過失でも幇助になるの?

A.ならない。刑法第38条「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。」により、幇助には過失の規定がないので、過失により犯罪を手助けした場合は、罪にならない。

Q.未必の故意って?

A.「結果の発生自体が不確実であるが、発生する蓋然性を表象している場合」(前田 P283)。未必の故意は故意にあたる。

Q.そもそも幇助って?

A.刑法第六十二条「第一項 正犯を幇助した者は、従犯とする。」

Q.これだけだと良く分からないんですが。

A.幇助の構成要件は、「正犯行為への従属」と「幇助の因果性」。幇助ってのは犯罪を手助けしたことだから、その犯罪を実際に行なった奴(正犯)が存在する必要がある。これが「正犯行為への従属」。また、幇助ってのは手助けなんだから、正犯を手助けしている必要がある。これが「幇助の因果性」。

Q.どんな行為が幇助になるの?

A.殺人の依頼に関して報酬の相場を助言(精神的幇助)。賭博客に何も告げずに賭博場に案内する(片面的幇助)。わいせつ画像へのリンク(FLマスク裁判)。

Q.著作権の寄与侵害との関係は?

A.日本の著作権には寄与侵害の規定がないので関係ない。

Q.「著作権法に触れることを認識して、(使用者が)摘発されにくいように改良をし、捜査を免れようとした。それを周知し、繰り返した。(開発行為そのものを幇助としたのではなく)そのような行為全体をとらえた」って何言ってんのこの人?

A.さあ。日本には罪刑法定主義があるので、漠然とした「行為全体」のような理由では逮捕できない。今回の場合は幇助だから、ある特定の具体的な正犯に対する具体的な幇助行為に関して逮捕されたはず。

Q.Winny の違法性が争点なの?

A. 違う。以下、引用

道具の違法性なんて全然関係ないでしょ。 幇助犯の違法性は正犯に従属するんだから。 Winny“それ自体”が違法であるかどうかは関係ない。

1、Winnyを使用して構成要件該当・違法行為を行った正犯者がいて、(←共犯の制限従属性)

2、その正犯者(不特定でも可)の存在を認識(の可能性でも可)し且つ、自らの行為が正犯者の構成要件該当・違法行為を幇助する事実を認識(の可能性でも可)して、(←故意)

3、結果正犯者の構成要件・該当行為を精神的または物質的に容易にした(←幇助の正犯行為への因果関係)

ならば、幇助犯が成立する。

もちろん、説によっては、正犯結果説や最小限従属形式などを採る事もできるけどね。

みんな「違法かどうか」について議論してるからおかしくなるんだよ。違法性は正犯者がすで具備している。あとは、責任故意*と幇助の因果関係の問題。

*ただし、行為無価値論からの違法共犯論に立った場合、主観的違法要素としての故意を、もしくは最小限従属形式ないし混合惹起説に立った場合、共犯独自の違法性の問題を議論する余地はある。

http://school2.2ch.net/test/read.cgi/shikaku/1084289803/313n

Q.なんだか有罪っぽいですね。

A.杓子定規に適用すると有罪になりそうだけど、それでは幇助の適用範囲があまりにも広くなり過ぎる。確かに正犯と幇助犯の間に意思の疎通は必要ない(片面的幇助)とか教科書には書いてあるけど、それは上で挙げたように「賭博客に何も告げずに賭博場に案内する」レベルの話。不特定多数にツールを配布してそのうちの誰かが著作権を侵害するというのとはわけが違う、と僕は思う。

Q.小倉弁護士が挙げている「中立的行為による幇助」って?

A.熊本地判平成元年3月15日判例時報1514号169頁を眺めてみた。時間がなかったのでちゃんと読んでいない。相手が脱税目的で軽油を販売していることを知りつつ買う行為が「軽油引取税不納付の共同正犯はおろか幇助としても無罪とした」例。

Q.今後の争点は著作権?

A.違う。幇助の違法性は正犯に従属するので著作権侵害の部分で争っても仕方ない。以下引用。

園田寿・甲南大大学院教授(刑法、情報法)は「今後、争点になるのは、開発者の故意の有無だろう」とみる。開発者がメールなどで利用者と連絡を取っていた場合、幇助容疑も成立するが、単に開発しただけなら違法行為の「あおり」にしかならないと指摘。「共犯が成立するためには具体的に犯罪が発生するという結果について予見していることが必要だ。でないと、パソコンメーカーやインターネット接続業者、Winnyのマニュアル本を出している出版社までも共犯に問われることになってしまう」と話した。 (05/10 14:51)

http://www.asahi.com/national/update/0510/019.html

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