ヘンリー・ペトロスキー著「ゼムクリップから技術の世界が見える」、読了。一見単純に見えるゼムクリップから数々の深い洞察を引き出しながら、読者を工学の世界へと誘っていく。
構成が非常に巧み。最初にゼムクリップを取り上げて、材料の弾力性、製造方法の容易さ、製造コストなどの重要性を読者に理解させる。次に折れる鉛筆は「片持ち梁」と同じように分析できることを指摘しながら、材料の弾力性および破壊について触れる。アルミニウム缶の工学を先に紹介し、後の章で飛行機を登場させて、このふたつがある意味で同じ工学上の目的「内圧と外圧の差に耐える」を持っていることを読者に自然と受け入れさせる。
このように、一見全く違う人工物を統一的に扱う方法論、工学的な考え方を読者が自然に受け入れるような構成になっている。
著者の専門は土木工学である。著者の本領発揮ともいえる「橋と政治」の章を著者は次のように締める。
工学は、社会や技術のないところには起こりえず、したがってあらゆる工学プロジェクトを方向づける力は、それと同時に起こっているほかのニュースや世界の出来事を方向づける力と同じなのである。プロジェクトの土台をなし、そのプロジェクトならではの特質を与える工学の技術的側面について、技術者の無知であったり無視したりすることは禁物だが、これらの技術面は工学上の問題の一部分を占めるにすぎない。工学上の問題は、どれもみな複雑な、人間らしい試みだ。あらゆる工学の取り組みは、それをとりまく文化や政治や時代によって方向づけられ、その逆もまたいえるのである。
ゼムクリップから技術の世界が見える P248
訳者の解説によれば、2001年9月に起きた世界貿易センタービルに対するテロに関して、ペトロスキー氏は摩天楼はもう建設されないだろうし、通信ネットワークの発達した現代ではその必要性もないと述べている。これは、「今日の必ずトクする一言」の山本氏の意見と偶然にも同じものである。
最近のコメント