脳ざらし紀行


2003-05-18

_ [経済] 不良債権処理

以下の記述は岩田規久男「金融法廷」P170〜を参考にしたものです。

不良債権は景気が良くても悪くても、優秀な銀行でもそうでなくてもある程度は発生する。もちろん景気が悪くなれば不良債権は増える。

不良債権の典型的な処理の仕方は以下のようになる。銀行はお金を貸した企業の経営が良いかどうかを観察する。貸し出し先の企業の経営が悪くなってきたらその度合に応じて引当金を積んでいく。「引当金を積む」とは『貸出債権が回収できない場合に備えて、資金を用意しておくこと』である。

引当金は企業会計上の費用となりその分銀行の(会計上の)利益は減る。引当金を銀行が適切に積むようにすれば、危ない貸出先をどのくらい抱えているかを銀行の会計に適切に反映することができる。銀行が赤字決算となれば当然役員社員給与は減額、株主への配当も無しとなる。これにより本来不良債権の処理にあてるべき利益の社外流出を防ぐことができる。この際、引当金の「ある一定額」までは損金に算入され課税対象利益から差し引かれる。

貸し出し先企業がいよいよ本当に危なくなったとする。このとき銀行は貸出債権を「償却(直接償却)」する。「償却」とは『貸出債権を、回収不能額を差し引いて評価しなおすこと』である。このとき引当金を積んでおけばこれを償却のための資金に使うことができる。できなければ銀行は自己資本を償却に資金にあてなければならない。この際、償却は損金に算入され課税対象利益から償却分差し引かれる。引当金を償却に用いた場合は上に述べた分を除いた分が損金に算入され課税対象利益から差し引かれる。

最終的には銀行は不良債権を大幅に割り引いて市場に売却する。この段階でようやく「不良債権の処理」が終る。この際、売却損が出れば損金に算入され課税対象利益から差し引かれる。

_ [経済] 繰り延べ税金資産

さて繰り延べ税金資産である。Nikkei BP Network の記事が詳しい。

銀行はこれまで、不良債権処理のために多額の引き当てを税金を支払ったうえで積んできた。この税金は引き当て対象企業が破綻したり、債権の売却などでバランスシート(貸借対照表)から切り離されたりといった、無税償却が実現した段階で、戻ってくる。正確には、銀行決算が黒字化した時に支払う税金が先払いした税金分だけ軽減される。銀行はこの先払いの税金分を自己資本に算入しているわけだ。

ところが、その額が2002年3月期時点で大手7行だけで7兆円を超え、諸外国と比してあまりにも膨大であることが、見直し議論につながった。これほどまでに繰り延べ税金資産の額が膨らんだのは、将来見込まれる課税所得の5年分の算入が可能であることによる。ちなみに、米国では「課税所得の1年分か、Tier1(中核自己資本)の10%のいずれか低い額」を算入限度としている。

竹中経財・金融相はこれを米国並みの仕組みにしようとしたのだが、公的資金注入を嫌う銀行とデフレの加速を恐れる自民党の激しい抵抗に遭い頓挫。繰り延べ税金資産の見直し自体は来年度以降に持ち越されたというのがこれまでの経緯である。

このような繰り延べ税金資産の見直しを読売新聞は批判している。これだけでは良く分からないので関連記事。以下、読売新聞の社説から引用。

繰り延べ資産の活用が厳格に規制されている米国では、無税償却や銀行の欠損金の繰り越し控除、繰り戻し還付が手厚く認められている。繰り延べ税金資産の問題は、不良債権処理の支援のための税制と一体で論議されるべきものだ。

要するにこういうこと。不良債権を処理して出た売却損は損金に算入され課税対象利益から差し引かれる。しかし、もし不良債権を売却した年に利益が出ていなければ、もともと課税対象利益もないわけで、不良債権を売却しても税負担が軽減されない。これではあんまりなので企業会計一般で損金は5年後までの課税対象利益から差し引くことができる。

そしてこの5年という期間が短い。不良債権を処理しても金融機関の税負担は十分軽減されない。だから不良債権の処理がすすまないのだ。そこんところを改善すべきだと読売新聞は言っている。(ちなみに、日本公認会計士の税制度改正意見書によれば、欠損金の繰越期間はフランス、イタリアが5年。オランダが8年。アメリカが15年。イギリス、ドイツが無期限。)

でも本当にそうだろうか。

_ [経済] 不良債権処理がすすまない理由

最初に説明したように銀行が引当金を適切に積んでいけば不良債権の「処理」はスムーズに行われる。高橋洋一さんの論説を引用する。

(引当金を適切に積んでいけば)会計的な意味での不良債権は各期ごとに解消され、期末には機械的に存在しないはずである。こうした処理をしている以上、不良債権は毎期徐々に処理され摩擦的な問題はあるが、大きな問題にはなりえない。

しかしながら、適切な引当金を「積まない」あるいは不良債権を売却して「最終処理しない」ようなインセンティブを金融機関がもってしまう仕組みが、日本の税制度にはある。上で説明した『引当金の「ある一定額」までは損金に算入され課税対象利益から差し引かれる』という仕組みである。このような仕組みがあると金融機関は「ある一定額」以上引当金を積極的に積もうというインセンティブをもたなくなる。

さらに高橋洋一さんが言うには

(引当金を積む段階で)税務上も損金認定したらどうなるだろうか。税のインセンティブを早々と使い果たしてしまって、最後のモノの処理の段階で「やる気」を失ってしまうだろう。実は、日本では、米国に比べて、カネの処理の段階での税務上損金算入は広く認められている。この点が、日本で、不良債権の最終処理=モノの処理が順調に進まない一因ではないだろうか。

不良債権についてカネの処理の段階(引当金を積む段階)では、特別のインセンティブは必要でなく、法令規に則り淡々と進めなければ、法律違反で処罰されるというペナルティで十分である。

つまり引当金を積む時の『引当金の「ある一定額」までは損金に算入され課税対象利益から差し引かれる』が不良債権の処理を遅らせている一因である。

税制度には問題がある。それが原因で不良債権の処理が遅れている。でも単純に金融機関が払う税金をやすくしたからといって不良債権の処理がすすむわけじゃない。繰り越し控除、繰り戻し還付はこのような枠組の中で議論されるべきだ。読売新聞がそこんところを分かっていっているかは疑問。

もちろん金融機関はもっと税金を払えと言っているんじゃない。たとえ同じ額の税金を払う場合でもいつ払うかで金融機関の振る舞いが変わってしまう。だから金融機関が社会全体から見て望ましい振る舞いをするように税制度を設計しようと言っている。

役員給与、株主への配当は本来不良債権処理にあてられるべきものだ。引当金が適切に積まれるような制度はそれを実現する。金融機関のもつ不良債権は増えた分だけ金融機関の会計に反映されるべきだ。引当金が適切に積まれるような制度はそれを実現する。

_ [経済] インフレ目標政策きぼんぬ

税制度をどう弄ったってデフレ下では金融がうまくいかないのは同じなので、インフレ目標政策が必要なのは言うまでもない。インフレ目標政策FAQ。非常によくまとまっている。

こっちはギャグ。

ケインズ派よ!悲しみを怒りに変えて立てよ、ケインズ派よ!

我ら新たなケインズ経済学の再興を志す者こそ、真実を語る義務を課せられていることを忘れないで欲しいのだ!

長期不況の落とし子たる我らこそ日本経済を救い得るのである!ジーク・ケインズ!!

_ [ネット] bewaad institute@kasumigaseki

自称「霞ヶ関の官僚」の手による「官僚の官僚による非官僚な人々のためのサイト」。おもろい。

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